夏の風物詩として、多くの人々に感動と興奮を与えてくれる高校野球、夏の甲子園。
テレビの前で地元のチームを応援したり、球児たちのひたむきなプレーに涙したりした経験がある人も多いはず。かなり。
しかし、その一方でインターネット上、特にSNSや匿名掲示板「なんJ」などでは、「甲子園はつまらない」「見ていてひどい」といった厳しい意見も少なくありません。
甲子園がつまらない・ひどい口コミはなぜ?なんJ・SNSの声

テレビ視聴率を見ると、決勝戦は平日昼間の放送にもかかわらず20%前後の高い数字を記録することがあります。特に出場校の地元では、視聴率が40%を超えることもあり、地域社会からの絶大な支持がうかがえます。
個人的には甲子園の予選から好きで見ているのですが、賛否あるのはなぜなのでしょうか。
甲子園はつまらない?ひどい?視聴者113人の声を独自調査

甲子園に対する世間のリアルな声を把握するため、113人の視聴者の声を独自調査してみました。(中途半端な数字ですみません)
調査の結果、「面白い・感動する」と答えた人が65%(73人)と過半数を占める一方で、「つまらない・ひどいと感じることがある」と答えた人も20%(23人)存在しました。「どちらでもない・時々見る程度」と答えたのは15%(17人)でした。
「つまらない・ひどい」と回答した23人にその理由としては以下のようなものが挙げられました。
残酷さや時代錯誤感への嫌悪
試合内容や展開への不満
やはり甲子園に対しては様々な角度からの批判的な意見が存在します。
もう少し深掘りして色んな意見を見てみたいと思います。
トーナメント制がもたらす「物語」の画一化と残酷さのため
甲子園がつまらないと言われる一つ目の専門的な理由は、その根幹をなす「トーナメント制度」にあります。
一度負ければ即敗退という形式は、一発勝負の緊張感や劇的なドラマを生み出す一方で、多くの問題を抱えているためです。
スポーツ文化評論家の玉木正之氏も指摘するように、敗者復活のないトーナメントは、多くの試合経験を積むことで成長するというスポーツ本来の教育的側面から見ると、望ましい形式とは言えないかもしれません。
約4000校が参加し、その半数がたった1試合で夏を終えるという現実は、あまりにも残酷だという意見も根強いのです。それが良さやドラマなのですがね。
「教育の一環」という建前と商業主義の実態が乖離しているため
二つ目の理由は、「教育の一環」という高野連が掲げる理念と、巨大な商業イベントであるという実態との間に大きなギャップが存在するためです。
甲子園は、NHKによる全試合無料放送や、様々な企業スポンサーによって支えられており、その経済効果は計り知れませんが、その一方で主催者である高野連は公益財団法人であり、過度な営利目的の事業は許されていません。
この「教育」と「商業」のねじれが、視聴者に違和感を与えているのです。
メディアは選手のひたむきさや涙を感動的に演出し、視聴率や話題性を高めようとしますが、こうした演出が過剰になると、一部の視聴者からは「選手の感情を食い物にしている」「感動の押し売りだ」といった批判、いわゆる「感動ポルノ」との揶揄が生まれます。
この建前と本音の乖離が、大会への不信感や「ひどい」という評価につながっているためです。
建前(教育の一環として) | 実態(商業イベントとして) |
---|---|
青少年の健全な心身の育成を目的としています。 | 高い視聴率や関連商品の売上など、大きな経済的価値を持ちます。 |
球児のひたむきな姿を伝え、青少年に夢を与える役割が期待されます。 | 感動的なストーリーを構成し、より多くの視聴者を惹きつけようとします。 |
あくまで「高校生」として、その成長を見守る姿勢が求められます。 | 将来のプロ野球選手候補として、スター選手のように扱われることがあります。 |
純粋な応援や感動を覚える人が多いです。 | 商業主義的な側面に気づき、冷めた目で見てしまう人もいます。 |
時代の価値観の変化に大会運営が追いついていないため
三つ目の理由は、社会全体の価値観が大きく変化する中で、甲子園の運営や慣習の一部が「時代遅れ」と見なされるようになってきたためです。
もちろん、高野連も時代の変化に対応しようとはしています。
近年の猛暑対策として、試合中に10分間のクーリングタイムを設けたり、試合時間を朝と夕方に分ける「2部制」を導入したり、将来的には試合を7イニングに短縮することも検討されています。
しかし、それでもなお、選手の健康リスクを軽視しているかのような運営方針に批判が集まることは少なくありません。
選手の心身の健康や権利を最優先に考えるべきだという現代の風潮から見ると、炎天下での過密日程や、特定の投手への過度な負担(投げ込み)といった問題は、看過できない「残酷ショー」だと映ってしまうのです。
根性論が当たり前だった時代とは違い、今は科学的根拠に基づいた指導やコンディショニングが重視されます。
こうした時代の変化に大会が完全には追いついていないことが、「ひどい」「非科学的だ」という批判の温床となっているためです。
項目 | 従来の価値観(根性論の時代) | 現代の価値観(科学的アプローチの時代) |
---|---|---|
暑さ対策 | 暑さに耐えるのも鍛錬の一環と見なされていました。 | WBGT値など科学的指標に基づいた中止・中断判断が求められます。 |
選手の健康管理 | 多少の無理やケガは付き物だと考えられていました。 | 選手の将来を見据え、故障リスクを最小限に抑えるべきだと考えます。 |
指導法 | 指導者の命令は絶対、という上意下達が主流でした。 | 選手との対話を通じて、主体性や考える力を育む指導が重視されます。 |
多様性の尊重 | 全員同じ坊主頭など、画一的なスタイルが良しとされていました。 | 髪型なども含め、選手の個性を尊重する風潮が強まっています。 |
個人的に思うこと
ここまで、甲子園に対する様々な批判的な意見を見てきました。
確かに、指摘されている問題点はどれも真摯に受け止めるべきものばかりだと思います。
選手の健康問題や、時代に合わない慣習など、改善すべき点はたくさんあるでしょう。
でも、それでも私は甲子園という舞台が大好きです。
プロ野球のように年間を通して行われるペナントレースとは違い、甲子園は負けたら終わりの一発勝負。
その一瞬にすべてを懸ける高校球児たちのひたむきな姿には、理屈を超えて胸を打たれるものがあります。
エラーをしても、仲間たちが駆け寄って声をかける姿。アルプススタンドから響き渡る応援歌。地元や母校の代表を、地域全体で応援するあの一体感。
予想を覆すような番狂わせが起きたり、大会期間中に選手たちが目に見えて成長していく姿を目の当たりにしたりすると、「やっぱり高校野球は面白い!」と心から思うのです。
甲子園(高校野球)が向いている人
様々な意見があることを理解した上で、それでも甲子園を心から楽しめるのは、きっと次のような人たちだと思います。
- 一球に泣き、一球に笑う、筋書きのないドラマが好きな人
- 地元の代表や出身校に、熱い声援を送りたい人
- 若者がひたむきに努力し、成長していく姿に感動したい人
- プロ野球とは一味違う、アマチュアスポーツならではの純粋さを味わいたい人
- 日本の夏の風物詩として、季節の訪れを感じたい人
Q&A
最後に、甲子園に関するよくある質問や、少しマニアックな疑問についてQ&A形式でお答えします。
- なぜ甲子園は毎年、真夏の暑い時期に開催されるのですか?
全国の高校生が参加できるように、学校の長期休暇である「夏休み」に開催する必要があるためです。これが伝統として定着していますが、近年の記録的な猛暑を受け、作家の小林信也氏など専門家からは開催時期の見直しを求める声も強く上がっています。
- なぜ甲子園の出場校は私立の強豪校ばかりなのですか?
私立高校の方が、全国から有望な選手を集めるスカウティング力や、野球に集中できる寮・専用グラウンドといった環境が整っている場合が多いためです。実際に、公立校の出場校は年々減っており、2025年大会では史上最少の6校にとどまりました。ただ、徳島県のように伝統的に公立校が代表になり続けている地域もあります。
- ネットで見るスポーツ紙の「戦力評価A,B,C」って、選手たちはどう思っているのでしょうか?
大会前に発表される戦力評価ですね。これには「出場校に敬意を払うべきだ」という批判的な意見と、「大会を楽しむための参考情報になる」という肯定的な意見があり、賛否両論です。人気野球YouTubeチャンネル「トクサンTV」を運営する元甲子園球児の徳田正憲氏によれば、選手たちは評価が低くてもそれを発奮材料にすることはあっても、気にして落ち込むようなことはないだろう、とのことです。
- 「〇〇の甲子園」って、野球以外にどんな大会があるんですか?
「甲子園」という言葉は、高校生の全国大会の代名詞として、様々な文化部の大会で使われています。有名なものでは、愛媛県松山市で開催される「俳句甲子園」や、北海道東川町で開催される「写真甲子園」、さらには「科学の甲子園」などがあります。これは、本家である高校野球の甲子園がいかに国民的なブランド力を持っているかの表れだと言えますね。
- 暑さ対策で「7イニング制」が検討されていると聞きましたが、野球って昔から9回制じゃなかったんですか?
実は、そうではないのです。野球が考案された1840年代のルールは、なんと「21点を先に取ったチームが勝ち」というものでした。その後、試合時間が長くなりすぎるといった問題から見直しが行われ、1857年に現在の「9イニング制」が正式に採用されたという歴史があります。つまり、野球のルールは時代に合わせて変化してきたのです。ですから、高野連が猛暑対策として7イニング制を検討するのも、野球の歴史の流れに沿った自然な動きと捉えることができるかもしれません。